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磨き、磨かれ。「8耐で輝くために」

「YART Yamaha Official EWC Team」は、世界耐久選手権にフル参戦する強豪チームを母体に、全日本JSB1000に参戦する「YAMALUBE RACING TEAM」の藤田拓哉と野左根航汰、そしてヤマハ発動機のエンジニアが加わったもう一つのファクトリーチーム。国内外トップライダーを揃える「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」を、磨きあげられ鮮やかに輝くダイヤモンドに例えるなら、「YART Yamaha Official EWC Team」は、研磨の途中にある原石と言えるかもしれない。その理由はもちろん、若手2人の存在だ。

その藤田と野左根がチームに合流を果たしたのは、7月4〜6日の公開合同テスト。そして初めてYZF-R1+ピレリタイヤを体験した2人の走りは、不安定な天候だったとはいえ、普段、全日本で見せるキレのある走りには、およばなかった。

「想像していたよりもずっと難しいですね。ただ、どう乗ればいいのか、少しだけれどわかった気がします。いつもの自分の乗り方をしていてはタイムは出ない。乗り方を変え、マシンを乗りこなしていきたい」と藤田。野左根は「思っていたよりも、乗りこなせませんでした。いつもの自分を100とすると、シェイクダウンでは60%くらい。今後は、走り込んでマシンに馴れていきたい」と語った。

藤田は乗りこなすことを、野左根は乗り馴れることを目標に掲げ、アプローチは違うがチームのため、自分のためにトライ&エラーを繰り返した。テスト初日は時々雨が落ちてくるコンディションで走り込みはできなかったが、2日目は天気も安定して走り込みを実施。さらに3日目も走り込むことができた。それでも、藤田は2分12秒台、野左根は11秒台… 全セッションを終えて野左根が語った「プライドはズタズタ」という言葉が、すべてを物語っていた。

しかし、チームを束ねるマンディ・カインツ監督は、この結果をポジティブに捉えていた。「彼らにとってこのマシンは初めてで、ライディングスタイルを変える必要もあったが、私が言うまでもなくトライを続けてくれた。走るたびタイムが安定していたから、もう少し走り込むことができれば、必ずや大きな戦力になるだろう」と。

一方、チームのエースで、過去にはMotoGPをはじめ世界のトップカテゴリで戦ってきたベテランのブロック・パークスは1人、気を吐いた。自身のフィーリングを高めながら、チームリーダーとして、原石の磨き手を担った。

パークスは、毎セッション、確実にタイムを削り、最終日には2分8秒台まで縮め、ベテランの強さを余すところなく見せつけ、その走りで若手を鼓舞し続けた。「すぐにマシンに慣れるのは簡単ではないけれど、彼らは果敢にチャレンジしていたね。もっと理解しなくてはならない点もあるけれど、2人ともとてもセンスのいいライダー。鈴鹿8耐で好成績を導くためには、私自身ががんばるのはもちろんだけれど、若い日本人ライダーにかかっている部分も大きい。野左根とは一度、違うシチュエーションで一緒に走る機会があって、ライディングスタイルがとてもいいライダーだと記憶している。大丈夫。彼らなら絶対にやってくれると信じている」

「まだ、どこまで攻めていいのか判断がつきません。転倒してしまうと、パートナーにも迷惑がかかるので、余裕のあるところで攻めるのを止めている状態です。でも、確実に前に進んでいる手応えはあります。もう少し、あともう少しで次のステップに進めるところにまできています」と藤田が語れば、野左根は「ブロックは、常に安定して走れています。僕もそこそこタイムが出るようになったけれど、タイヤが消耗してくるとタイムが安定しない。テスト2日目、そして3日目に2分11秒台が出たけれど、求められているのはもっと高いレベルなので、今のままではいけないことはわかっています。鈴鹿のベストは、2分6秒5。ここからどう巻き返すか、そしていい形でウイークに入るにはどうすればいいのか、今後のテストでじっくり考えます」

2人とも、今は高い壁に行く手を阻まれた状態で、この壁を乗り越えなければ先は見えてこない。そうした状況を知っているからこそ、パースクは、順調な仕上がりを見せ、2人にちょうどいいプレッシャーをかけたのだ。

そして鈴鹿8耐本番前の最後のテストは、そのパークスを怪我で欠くこととなった。しかし、柱を失った2人は、その穴を埋めるかのように黙々と走り込みを続けた。「パークスは8秒台を出しています。鈴鹿を何度も走っている僕らも絶対そこまでいきますよ。もうこれ以上、心配をかけたくないので…」と口を揃えた藤田と野左根。パークスの欠場が、ファクトリーとしての責任を芽生えさせ、トップライダーのプライドに火をつけた。

まだ、光は見えていない。まだ、3人ががっちりと手を組んだ状態にも至ってはいない。それでも、パークスの持つ大きな包容力の中で、藤田、野左根は、努力を続けながら前に進んでいった。主役は「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」だけではない。もう一つのファクトリーもまた、8耐で輝く準備を着々と進めている。

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