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YAMAHA FACTORY RACING TEAM 4連覇へ「ただ堅実に確実に、歩みを進めるのみ」

梅雨まっただ中であることを忘れてしまいそうな天候となった6月下旬の鈴鹿サーキット。そこに、わずか2日前にアメリカ・ラグナセカでのスーパーバイク世界選手権を終えたアレックス・ローズとマイケル・ファン・デル・マークの姿があった。

「鈴鹿サーキットに戻ってこられたことはとてもうれしいし、再びYAMAHA FACTORY RACING TEAMの一員として8耐を戦えることを誇りに思うよ」とアレックスが語れば、マイケルも「そうだね。中須賀さんをはじめ、昨年と同じスタッフで8耐を戦えるのはとても楽しみだ」と、にこやかに語る。そして2人を迎えた中須賀克行は「再びアレックスとマイケルが駆けつけてくれた。本当に心強いパートナーだよ。3人が揃い、今年もまた8耐がはじまるという実感が強まったね」と、熱い夏の戦いへと思いを馳せた。

今年、ヤマハYZF-R1はデビュー20周年を迎え、鈴鹿8耐用マシンはデビュー当時の赤と白を基調にしたスペシャルカラーとなった。アレックスは「昨年のブルーをベースにしたカラーリングはカッコよくてとても気に入っていたけれど、このスペシャルカラーもなかなかグッドだね。こういうアニバーサリーにライダーとして戦えることは本当にうれしいし、このマシンをもう一度、優勝マシンにしたいね」。そして「とても明るいカラーリングで気に入ったよ。この特別カラーのYZF-R1で、もう一度、優勝を目指すんだ」とマイケル。さらに中須賀は「今年は4連覇やYZF-R1の20周年があるけれど、そうしたことに気を取られすぎず、一歩一歩進むことが大切。その結果として4連覇、YZF-R1の20周年に華を添えられれば、それが最高だね」と語った。

午後の走行となったが、アレックスとマイケルは精力的に周回を重ねた。ラグナセカでのレースを終えると休む間もなく機上の人となり、テスト初日の明け方に東京国際空港・羽田に到着。そこから新幹線と車を乗り継いで鈴鹿サーキット入りした2人は、疲労と時差に見舞われていたことは想像に難くない。

「もちろん時差はあるけれど、それを理由に時間を無駄にしたくないんだ。今回、何のためにここに来たのかを考えれば、それは当然のことだよ。昨年、僕たちは同じメンバーで戦って優勝しているけれど、だからといって今年も優勝できる保証はどこにもない。ライバルも今年はさらに強くなっていると聞いているし、だからこそ、勝つための準備をしっかりと進める必要があるんだ。3人で走れる機会は少ないから、少しの時間も無駄にしたくない(アレックス)」

「僕たちが戦っているスーパーバイクや、中須賀さんが戦っているJSB1000では、自分のためにマシンに仕上げればいいけど、8耐では3人が同じマシンに乗るから、しっかりと3人に合った仕上げが必要なんだ。だから時間を無駄にしたくないし、こうした機会を作ってくれたチームには感謝している(マイケル)」

2人の言葉に、JSB1000で勝つたびに中須賀が勝因にあげる「ウイークまでにどれだけ準備を整えることができたかがカギ」という言葉が重なった。そのJSB1000を戦う中須賀に関して、吉川和多留監督はこんな話しをしてくれた。

「今年の中須賀選手、どこか違うように見えません? 彼とはJSB1000のレースや事前テストそしてYZR-M1の開発テストなどでほぼ毎週のように顔を合わせていますが、シーズンオフに1ヵ月半くらい会わない時期があったんです。そして再会したとき、いつも通りにいつレースシーズンが始まってもいいようなくらいに身体を仕上げてきていましたが、表情がいつもとまったく違っていました。さらにR1に関しても、いきなりこうしたらどうだろう、ああしたらどうだろうって提案してきました。昨年、JSB1000のチャンピオンを逃して、本当に悔しかったんでしょう。シーズンオフの間、彼はレースのことだけを考えていたのだと思います。そしてR1を走らせたとき、フォームが少し変わっていたので、変えたの? と尋ねたら、"変えていません"と返ってきました。推測ですが、シーズンオフに頭で考えていたことを、無意識のうちに実践していたんでしょうね。JSB1000で何度もチャンピオンを獲って、鈴鹿8耐でも結果を残しているライダーですがまだまだ進化している。これは本当にすごいことだし、監督として心強いです」

そして吉川監督は、今年の鈴鹿8耐に向けてこう語る。

「中須賀選手はJSB1000での戦いが示す通りに絶好調です。そしてアレックスとマイケルはスーパーバイクで優勝していて、こちらも調子が上がっている。だから彼らを自由に走らせると、きっとどこまでもタイムを上げて行きそうで怖いんです。スプリントではなく耐久であり、アベレージこそが重要であると手綱を締める必要がありそうです」

この吉川監督の不安はアレックスよりあっさりと払拭された。

昨年の鈴鹿8耐はレース途中に雨が降り、さらに数回にわたりセーフティーカーが介入する荒れた展開となった。そうしたなか、アレックスが2度目のライディングの際に記録した2分06秒932が、鈴鹿8耐のコースレコードとなっている。

「昨年の僕のタイムが鈴鹿8耐のコースレコードなの? それはとても誇らしいことだね。でも、鈴鹿8耐でコースレコードは必要ないんだ。どれだけ安定した速いペースでラップを刻めるかが重要。去年も同じことを考えながら戦っていたから、その延長上にコースレコードがあったということでうれしいけれど、それを狙って走るこようなことは絶対にあり得ないよ」。すると中須賀は「記録はやはりすばらしいこと。しかも昨年のアレックスのタイムは、チームの作戦に従ってのものだから、なおさら評価されるべき。でもやっぱり今年も、まずは勝つことが最優先。すべての記録は勝たなければ達成できないものだからね」

話しは2016年7月31日午後6時30分前後に遡る。鈴鹿8耐チェッカーまで約1時間となったYAMAHA FACTORY RACING TEAMのピットは、最後のピットインを前に慌ただしさを増していた。そして怒号にも似た声がピット内に響き渡る。「19は狙わない。18でいい、18だ」。そう、これは史上最多周回数タイとなる219周を狙うのではなく、218周をしっかり走ることを意味し、記録から必勝へと舵を切った瞬間だった。

YZF-R1がピット前に止まると、メカニックは通常よりも時間をかけ入念にマシンチェックを行い、最終ランナーのアレックスがピットアウトしていった。そして危なげないライディングで218周を走破して優勝を遂げた。

「確実に219周は視野に入っていました。でも、ナイトセッションであり、ここで記録を狙うのは、ライダーに無理を強いることなりリスクの増大を意味します。ファクトリーチームですから記録にも挑戦しなくてはなりませんが、何よりも重要なのは優勝。そのため最後のピットワークでは、スクリーンを拭いたりといつも以上に入念にマシンチェックをしました(吉川監督)」。記録に固執するのではなく、勝つことを目指すというのがこの年の戦いにあった。

それでもファンとしては記録にも注目したい。ヤマハは鈴鹿8耐で過去にも連覇しているが、3連覇は昨年が初めてで、今年はその記録を更新する4連覇がかかっている。同時に中須賀個人にとっても4連覇であり、これはライダーの連勝記録で単独最多となる。さらに中須賀とマイケルには歴代優勝記録で2位タイとなる4勝目がかかっており、YZF-R1デビュー20周年での優勝も望まれるところだ。

中須賀は「今年はなんだか記録がたくさんある。これついては、シャットアウトしていても耳に入って来るものだけど、絶対に惑わされないようにしたい。ライダーはチームの作戦に則って、与えられた仕事を着実に履行していくのみ。それが優勝への道だと思う」。しかし、ここでマイケルが笑顔で口を挟む「でもさ、8耐の最多優勝記録は5勝だから、今年は来年の最多優勝タイ記録に向けての戦いというのもいいよね!」と。これには中須賀も苦笑いだが「いつもこんな感じで、8耐チームのなかでこんなに雰囲気のいいチームは他にないでしょう。もちろん個々のライダーのポテンシャルはとても高いし、スタッフとのチームワークも抜群で、これがYAMAHA FACTORY RACING TEAMの強さの一因なんだ」と中須賀。

2日間のテストを終え、アレックスとマイケルは再び自身の主戦場となるスーパーバイクに戻った。吉川監督は充実したテストと振り返るが、改めて鈴鹿8耐の難しさを語った。

「8耐は、世界耐久選手権の一戦ですが、我々にとっては独立したレースであって、毎年が新しい戦いなんです。ライバルの布陣もマシンのポテンシャルも違います。だから3連覇してはいますが、今年の戦いで我々が有利かと言えば、そうではありません。他のチームと同様、8耐制覇に向けたチャレンジャーであり、だからこそ、今年もしっかりと準備を進めることが重要なんです。ターゲットラップは219周以上ですが、8耐では、天候の変化はもちろんアクシデントやトラブルに対していかに素早く対応できるかが勝負のカギになります。だからターゲットラップは机上のもの。今年もしっかりとチームワークに磨きをかけ、再びヤマハファンや8耐ファンに喜んでいただけるレースをしたいし、YZF-R1誕生20周年に華を添えられるようにがんばります」

優勝によってついてくる数々の記録は、いまは敢えて忘れよう。それは、今年の鈴鹿8耐で優勝した時に、その歓喜とともに噛みしめればいいのだ。