中須賀克行、「求められる限り、最後まで諦めない」
2025年、6年ぶりに復活した「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」から鈴鹿8耐に出場した中須賀克行選手には、当時、公にはしていなかった秘密があった。
約1か月後に決勝を控えた7月頭の事前テストのことだった。「転倒した時に左のあばら3本と腰の骨にヒビが入ってたんだよね。みんな同じ条件で走っている中で転倒してしまったのは、自分の準備不足だったということ。そこから約1ヵ月あったけど、完全に治すことはできなくて...今振り返ると、万全ではない状態でレースウィークに入ってしまったんです」
続けて2025年の決勝について言及する。「6年ぶりにファクトリーが復活して自分も年齢を重ね、正直6年前よりは怪我も含め"きつかった"ですね、やっぱり。自分の中では満足いくものではなかったけど、なんとか自分の持てる力を100%出し切って役目は果たせたかなと。最後まで諦めずにやれたことは良かったんじゃないかなと思ってます」と、その言葉には歯痒さとともに、出し切ったという誇りが垣間見えた。
その2025年の鈴鹿8耐は、久々に世界で活躍するトップライダー、ジャック・ミラー選手(MotoGP)とアンドレア・ロカテッリ選手(スーパーバイク)とチームを組んだ。
「まあロカはね、スーパーバイクで自分とほぼ同じ車両に乗ってて、だからまあ、慣れていくのも早かった。ジャックの方はかなり厳しかったと思う。でもライダーが持っているポテンシャルは高いんで、最終的には自分の手足のようにR1を操ってて、改めて世界選手権で戦ってるライダーってすごいなっていうふうには思いましたね。加えて昔のライダーのように我が強くて、自分だけが目立てばいいんだっていうことではなく、ライダーそれぞれがどうすれば結果が出せるのかをしっかり理解してるってことがやっぱでかい。だから自分も含めてすべてを飲み込んで乗ってくれるし、ライダーのバランスは非常に取れてたのかなと思います」
中須賀選手らしいのは、この続きにあった。「一緒に走ることで、自分ももっとできることがあると刺激を受けるんです。あっ、自分ももっとやれることがたくさんあるなって。レースに対する思いも二人とも熱くて、やっぱライダーってこうじゃなきゃダメだなっていうふうに感じさせてくれました。自分もまだまだ成長できるというのは、変わらないし、いつでも盗んでやろうと思ってます。今がMAXじゃないから、自分で今がMAXって思った時点で、どんどん下がっていくんで。まだまだ伸びると思ってやっていかないとやっぱり伸びていかないし、トレンドにもおいていかれちゃうんで、今でもその気持ちは常にあります。だからもう8耐はもちろん勝ちに行きながら、自分をどんどん成長させていくみたいなステージです」と学びにも貪欲であり、年齢もキャリアも関係なく、速いライダーから吸収しようとする姿勢こそ、中須賀選手が長年トップで戦い続ける理由なのだろう。
そして2026年の鈴鹿8耐の参戦については、意外な舞台裏も明かしてくれた。中須賀選手はヤマハ発動機にある問いを投げかけたという。
「メーカーとして、ファクトリーチームとして鈴鹿8耐に出るからには勝たなければいけない。でも、自分は今年45歳になるわけで、本当に自分でいいのかをヤマハに問いかけました。やっぱ勝ちにいくなら、しっかり2スティント目も、3スティント目も落ちずに走れるライダーの方がいいと思うし、勝ちを狙えるチームであり、勝たなきゃいけないチームだから、果たして自分が本当に適任かどうかを会社としてしっかり検討して、その結果、適任じゃないなら、それはそれで受け止めるつもりだった」
その答えは、「ヤマハからは即答で、"中須賀選手しかいないし、任せたい"って言ってもらって。その言葉をもらって"わかりました"と覚悟を決めました。現役で戦う以上は求められることが大事、そうじゃなきゃ意味がないでしょ、プロライダーとして。それに、"中須賀しか考えてないです"って誰もが言われる言葉じゃないし、メーカーを背負うっていうのはそういう意味だし。うん、嬉しかった」と教えてくれました。
モチベーション高く今年の8耐に臨む中須賀選手が最も重視しているのは、チーム全体が力を発揮できる環境を整えることだ。
「しっかりしたバイクを作ること。海外の二人が事前テストには来ていないので、乗り出しから気持ちよく走れる状態にして渡すことがまずは自分の役目。それができることによって彼らがその力を発揮して、ウィークもいい形になっていいリズムで流れていくし、それが勝利につながる一番の近道かなと思っています。また、彼らに見劣りしないタイムをしっかり出してアピールし、"よし、これならいけるぞ"っていう士気を高めることも大事です」と、ベテランとしてチームの土台を支えながら、ライダーとしても存在感を示す。その両立が今年の使命だ。
チーム自体も2年目ということで、昨年から強くなっている。最も進化したのは人だという。「明確に二年目もやるぞっていうふうに会社的にはなっていたので、昨年よりコミュニケーションは取れていますし、メンバーも多少変わりはしましたけど、メカニックの配置も早く決まって、みんなの練習も積み重ねられピットワークは確実に速くなっているので、そこの差は縮まって、いい勝負ができると思ってます」
そしていよいよ14回目(第3ライダーでの参加を含めて17回目)の鈴鹿8耐を迎える。中須賀選手にとって、このレースはどんな存在なのかを聞いた。「正直、"1時間、なんでこんな暑い中を走るんだろう"って思うし、セッティングも自分のものではないバイクに乗らなきゃいけない。結局8耐ってさ、我慢大会(笑)」と、冗談を交えながらも、その価値は誰よりも理解している。
「全日本選手権は知らなくても、鈴鹿8耐は知っているという人が多い。それだけ大きな大会。ここで活躍することはライダーとしてのステータスになるし、誰もが一度は優勝したい大会です。やっぱ、3万人超えるファンの前で勝つのも気持ちいいし、我慢してみんなの思いを乗せてバイクつないだからこそ勝った時の達成感は特別なんです」
最後の鈴鹿8耐に向けて一言を問うと、中須賀選手はいつも通り「しっかり準備して、最後まで諦めずに走ります」という言葉で締め括った。そして、「べつに最後じゃなくても頑張るし」と、少し怒りながら付け加えた。目の前のレースに全力で挑む。その姿勢はどんな時も変わらない。それが、中須賀克行というライダーだ。








