本文へ進みます
NEWS

Tying「強烈な個性をときほぐし、より強く一つに結ぶ」

250727_WY_001.jpg

チームの雰囲気に目を配りながら、ライダーやチームスタッフに声をかけて丁寧にバランスを取りチームを前へと導いていく。YAMAHA RACING TEAM(YRT)の吉川和多留監督だ。現在はチームビルドに徹する吉川監督だが、かつては中須賀克行選手と同様、ファクトリーライダーとして全日本や鈴鹿8耐でヤマハ発動機を背負って戦ってきた。その当時を思い出したのか、インタビューの冒頭、YZF-R7と同様のデザインが施された8耐仕様のYZF-R1について、「うれしいというか、懐かしいね」と相好を崩す。

250727_WY_002.jpg

「R7自体に結構、思い入れはあったんで。市販車のテストも一緒にやったし、レース専用車両だから剛性を選ぶ時も最後の判断をさせてもらいました。1999年、チャンピオン獲ったんだけど。ヤマハのレース用車両としては初のインジェクションで、今だから言えるけど乗りにくさもあった、問題もあったけどモチベーションすごい高くてね。結構、思い入れは強かったですね。だから、何としてもチャンピオンは取りたかったよね。紀行(芳賀)もスーパーバイクでちょうどチャンピオン争いしたと思うんだけど。だから、紀行とどっちが先にR7で優勝できるか競争して、タッチの差で先に勝たれちゃった。すぐ電話してきましたよ(笑)」と昔話しは止まらないが、当時を思い出す吉川監督の顔は実に楽しそうだった。

250727_WY_003.jpg

「ライダーとしての8耐は、思いどおりいかないことが多かったかな。もともとロングディスタンスのレースは得意で、200キロの勝率とか高かったんだけど... 何だろう、8耐は違う要素があって、しかも"何としてもやってやるぞっ"ていう思いが空回りしてる部分が多かったし、自分には幅があったつもりだったんで、"そっち合わせるよ"って譲りながらも無理して、結局それがたたってミスするみたいなのは多かったかな」

こうした経験を持った人がファクトリーチームの監督を担う。ファクトリーチームの強さはこの人選にもある。そして8耐で6回目の監督を務めることとなった吉川監督が、今回のチームビルドについて話してくれた。

「みんな耐久ライダーではないし、それぞれのカテゴリーのトップライダーなので本来は難しいよね。それぞれがリスペクトを持ってやるぞっていう感じでなければ成立しない。だからチーム側でこういうルーティンであなたはこの役目と提示して、それに沿ってもらう形じゃないと成立しない」

過去のファクトリーチームも常にタレントを揃えてレースをしてきた。2015年にはポル・エスパルガロ選手とブラッドリー・スミス選手というMotoGPライダーだった。その後もアレックス・ローズ選手、マイケル・ファン・デル・マーク選手というスーパーバイクのビッグネームでチームを形作った。

「本当はみんな、自分が一番で自分を中心に回したいはずなんです。彼らのレベルであれば。だから役割分担をするんだけど、それぞれがアピールしますよね。中古タイヤでもこのタイム出せるみたいなのはみんな絶対腹の中にはあるので、ライダーとしては自分が一番っていうところは隙あらば見せてくる。それがトップライダーの本質だし当たり前、みんな世界で戦ってるトップライダーなので。ただそこを強く出し過ぎると、チームが成立しなくなるのが耐久です」

250727_WY_004.jpg

そして役割分担の基軸となるのが中須賀選手だ。「中須賀選手がバイクとしての正解を作る。チームを信頼してもらえるかどうかは1回目の走行(マシンの出来栄え)によるところが大きくて、そこで信頼が生まれると、みんな"チームの考えでいこう"となる。そこはいつも心配するとこだし、一番気を使う。で、ライダー同士の関係性もそこで決まる」

その中でも一番大事なのが、第3ライダーとしての役割だと言う。2015年の第3はスミス選手で、以降はアレックス選手、マイケル選手が担った。「本当は個人のセッティングに全部合わせれば、全員がポールを狙える実力の持ち主なんで。それが、テストの中で自然とライダー同士が8耐を勝とうとしたときに自分の役割はこれかなって考えだしてくれたら、もう成功かな」と言うが、裏で糸を引いているのは吉川さんであることは言うまでもない。鈴鹿と8耐とR1を知り尽くす中須賀選手を揺るぎない大黒柱として押し上げながら、ライダーの個性を理解して采配するのだ。

ちなみに今年は、インタビューの時点でライダーの役割は決まってなかった。夜間走行の得意不得意などを含め決めていくとのこと。本番を楽しみにしてほしい。

250727_WY_005.jpg

さて、昨年は過去最高の「220周」で勝負が決した。「それは一つの目標としてあるけど、2019年の時の課題もあるわけですよ。改善点っていうのは延々なくならない。中でも何もできていないのがピットワーク。もちろん速いのはいいことだけど、安定感がないとダメ。かつてはギリギリでこなせてはいたけど、結構ハラハラな部分もあった」。7月3-4日のプライベートテストでの反復練習の理由はここにあった。

「ピットワークを課題にあげたけど、実際はスタッフもバイクも仕組みもブランクの影響はある。バイクは8耐のレギュレーションがいろいろ変わってる。例えばミッションもその一つだし、皆さんが思うよりは全日本と違うものを走らせてるって感じ。もちろん車重が違うだけでも全然変わるしね。そういうところをアップデートしてネガな部分を消した8耐にしたいなっていうのはあるよね」

そして2025年、ヤマハ発動機は創立70周年、レース活動も70周年を迎えた。その中でファクトリー体制を復活し日本最大級のレースに出場することなる。「YARTもみんな予選で2分5秒台とかで普通に走るようにEWCのレギュラー組も侮れない。けど、ファクトリーを名乗って出るからにはもちろん優勝目指すし、最終スティントまで勝敗がつかないようなヒリヒリしたレースができればファンとしては最高だよね。チームとして大変だけど(笑)。ただライダーはもちろん、チームもバイクもそれができると信じてる」

250727_WY_006.jpg

にこやかに冷静に。されどライダーのためにすべてを注ぐ勝負師として、個性あふれるファクトリーライダーを一つに結び合わせるコントローラーとして勝利を目指すのだ。

ページ
先頭へ