「YZF-R1」レース車両開発プロジェクトリーダーインタビュー Vol.1
2025年4月19-20日、全日本ロードレースの最高峰JSB1000で、ウィングレットを装備した新型YZF-R1がデビューしました。このR1は、鈴鹿8耐で使用するバイクのベースとなることから、そのポテンシャルを確認する機会でもありました。
結論から言えば「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」の中須賀克行選手が2位表彰台を獲得するも、ウィングレットを含めたセッティングをさらに煮詰めていく必要があると同時に、さらなる伸び代を確認する機会になったのです。
ここでは2019年以降のYZF-R1の開発状況や、新しく採用したウィングレット、鈴鹿8耐に向けた準備状況や目標について、JSB/鈴鹿8耐車両の開発プロジェクトリーダーである福島造にインタビューを行いました。
チャンピオンとともに基本性能を磨き上げた6年間
「2019年を最後にYZF-R1は鈴鹿8耐に参戦していませんが、JSB1000への参戦を通じて開発を継続してきました。その方針は過去から変わることなく、コーナーリングも含めた"減速~加速"という基本性能を伸ばし、ラップタイムを少しでも向上することです」と語るのは、全日本と鈴鹿8耐に参戦するR1の開発プロジェクトリーダーである福島造です。
「加速について言えば、少し開発の考え方に修正を行いました。2022年、岡本選手がチームに加入して新しい走行データが手に入るようになりましたが、これを分析すると、中須賀選手と岡本選手では乗り方が大きく違うことがわかりました。前者はレイトブレーキングでギュッとバイクを止め、短い距離でコンパクトに向きを変え素早く大きくスロットルを開けるタイプ。後者はブレーキでスピードを落としすぎず、コーナーリング中もスピードをキープするタイプでした。
中須賀選手の走り方の場合、コーナーの立ち上がりでスロットルを大きく開けるためスピンが多くなる傾向が認められました。中須賀選手は勉強熱心なことで知られていますが、岡本選手と自身の乗り方を比較して違いを把握し、その強みを吸収していこうとしてきたのです。それに合わせ、エンジンを含め車両に求める特性が変わってきましたが、2024年に入ってからそれが目に見える形になって表れてきたと記憶しています。
中須賀選手が岡本選手に寄せて、スピンによるロスを減らす乗り方を取り入れ、我々も制御、ディメンジョンやパーツ剛性の最適化など車体の仕様変更を進めて、R1のパワーをさらに使えるようにしたことで、加速性能は進化を遂げました。
一方、減速は止める性能ではなく、ブレーキングの時のライダーのフィーリング、特に接地感が重要で、エンジンブレーキでリアを引っ張って(リアを地面に押しつける感覚)、フロントの負荷を減らしながら、車両を曲げていけるような作り込みを行ってきました。制御、車体(サスペンション・スイングアームなど)、エンジンを含め、バイク全体でライダーがコントロールしやすいブレーキを作ってきたのです」
福島PLの言葉からもわかるように、タイム(性能)を一気に上げる魔法のようなアイテムがあるわけではなく、基本性能を休むことなく磨き続けることでR1は進化を遂げてきたのです。
実際2019年から6年、中須賀選手、野左根選手、岡本選手というJSB1000のチャンピオンライダーがR1の開発に携わっており、「その蓄積は決して少なくはありませんし、トータルのポテンシャルはかなり上がっている」と福島PL。2024年はもてぎとSUGOで中須賀・岡本両選手がコースレコードを出していることからもその進化が止まっていないことを証明しています。