本文へ進みます
NEWS

CLEARLY 「栄光の瞬間へ、すっきりと」

250730_AL_001.jpg

エネルギッシュなイタリア人ライダー、アンドレア・ロカテッリ選手は、全日本ロードレースJSB1000クラスで12回チャンピオンを取っている中須賀克行選手や、MotoGPライダーのジャック・ミラー選手に囲まれながら、まったく物怖じするような様子を見せなかった。

250730_AL_002.jpg

確かに、ロカテッリ選手自身も世界的なトップライダーだ。2013〜2019年にかけてMoto3とMoto2に参戦し、舞台をスーパースポーツ世界選手権に移した2020年には開幕戦から9連勝し、15戦中12勝をあげていきなりチャンピオンを獲得している。2021年からはスーパーバイク世界選手権(SBK)に参戦し、これまでに表彰台は21回。今年の第3戦オランダ大会では初優勝をあげた。

28歳の勢いは、鈴鹿8耐の事前プライベートテストでも遺憾なく発揮された。コースインすると瞬く間に好タイムをマークし、ハイペースを維持する。走行を終えてYZF-R1を降りるや、紅潮した顔から流れ落ちる汗を拭う時間さえ惜しみながら、矢継ぎ早にコメントをする。主張は明確で、ああしてほしい、こうしてほしい、ここに課題がある、とはっきりしている。SBKで存分にYZF-R1を経験しているから、自信もある。

「鈴鹿サーキットは本当に素晴らしいサーキットだね!」とロカテッリ。

「周回すればするほど、このコースの素晴らしさが分かるんだ。コーナーは高速から低速までバリエーションが豊かだし、シケインもあってテクニカル。本当に大好きなコースだ。しかも、鈴鹿8耐のレースウィークには観客席がいっぱいになるんだよね? そうしたら、もっともっと素敵になるはず。今から本当に楽しみだ」

初めて走る鈴鹿サーキットに対しても、物怖じは感じられなかった。探るような様子はなく、いきなり速い。しかも安定しており、すでにYAMAHA RACING TEAMの中でも存在感を見せている。それはロカテッリのキャラクターというより、事前にしっかりと研究し尽くしたことの成果だった。

250730_AL_003.jpg

テスト初日、走行が始まる前に、ロカテッリ選手が中須賀選手に使用ギアを確認するシーンがあった。コース図が描かれた紙をふたりで眺めながら、ロカテッリ選手が「このコーナーは何速で回り、ここで何速までシフトダウン......」と語り、紙の上で鈴鹿を1周する。ロカテッリの指がコントロールラインを通過すると、中須賀選手はサムアップし、「パーフェクト!」と笑った。

「去年の鈴鹿8耐の映像を見て、少し学んだんだ。それに、SBKでチームマネージャーを務めているニッコロ・カネパにもいろいろ教わった。ニッコロは鈴鹿8耐の経験が豊富だから、助けになったよ。すぐにいいペースで走れたのは、鈴鹿サーキットに来る前にある程度の準備ができていたからだと思う」

実際の走行では、事前に想定し、中須賀選手と確認し合ったのとは違うギアも使ってみたと、ロカテッリ選手は言う。

250730_AL_004.jpg

「何しろ鈴鹿サーキットを走るのは初めてだし、耐久仕様のYZF-R1に乗るのも初めてだからね。ギアも走行ラインも、いろいろ試してみたんだ。どれも悪くなかったから、すでに速く走れる状態ではあると思う。あとはレースウィークでもう少しYZF-R1で走り込めば大丈夫そう。いい感じだよ」

モニターに刻々と映し出されるロカテッリ選手のタイムを見て、中須賀選手が「速いな!」と笑った。決勝レースを想定したロングランテストでは、終盤になってもタイムが落ちない。チームは大きな手応えを感じていた。

速さと強さを存分に見せつけながらも、ロカテッリ選手に驕りはなかった。1日のテスト走行を終えると、スタッフ全員のもとに自ら出向き、握手をし、笑顔で挨拶を交わす姿からは、レースに対する真摯さが浮かぶ。几帳面であり、繊細でもある。装具の置き場所や置き方にもこだわりがある。人に対しても、モノに対しても、細かいところまで目配り、気配りを欠かさない。

250730_AL_005.jpg

「これは僕の性格なんだと思う。すべてをきちんとしておきたいタイプなんだよ。家でも、すべてを決められた場所に置きたい。ガレージもきれいにしておきたいし、何でも整っている状態が好きだ。これまで人生でいろいろ経験し、たくさんの人を見てきた中で、自然と僕もそうありたいと思うようになった。いい人間でいたいんだ。......だいたい、ゴチャゴチャしているのが嫌いなんだよ(笑)。これはホント、自分自身の性格なんだろうね」

よく言われることだが、多くの日本人は几帳面で真面目だ。そしてロカテッリ選手も、同じようなキャラクターの持ち主である。2020年から始まったヤマハとの関係は、ロカテッリ選手の場合、間違いなくポジティブに作用している。

「ヤマハのライダーになって、今年で5年目。さらに2年契約を更新したから、少なくとも7年間はヤマハ・ファクトリーのライダーとして一緒に働くことになる。僕にとって、これは重要なことなんだ。ヤマハは、とても大きな会社だ。すごい歴史があるし、レースでもたくさんの勝利を収めている。ヤマハ・ファミリーの一員でいられるなんて、信じられないほどだよ。鈴鹿8耐でももっと頑張って、ヤマハと共にトップの座を取り戻したいんだ」

ロカテッリ選手の母国・イタリアでは、数週間前にヤマハのイベントに参加したと言う。多くの家族連れが訪れ、「とても美しい風景だった」とロカテッリ。ヤマハのバイクにも特別な思いを持っている。

250730_AL_006.jpg

「ヤマハには、スクーターからスポーツバイク、そしてオフロードバイクまで、いろんなバイクが揃っている。大人用から子供用まで、バイクと呼べるバイクはひと通り作っているから、選ぶのが難しいぐらいだ。でも、どんなジャンルでもヤマハ製のバイクに乗るのは楽しい。

特に好きなのはTMAX560。ゆったりとした車格だから、公道でも余裕を感じられる。ギアチェンジもないから、リラックスして、のんびりとまわりの景色を眺めながら走れるんだ。僕にはぴったりだよ。

ヤマハのバイクは他にもたくさん乗ったことがあるよ。YZF-R9はサーキットで試乗したし、YZF-R7やYZF-R3、MT-10にも乗ったことがあるんだ。どれも素晴らしいバイク! エンジン特性が驚くほど優れているから、みんなにオススメしたいよ!」

ヤマハ製バイクの話になると、ロカテッリ選手の言葉はひときわ熱を帯び、止まらなくなるようだ。この情熱は、レースを軸にした「ファクトリーライダーとメーカー」というビジネスの関係を超えている。ロカテッリ選手自身が言うように、ヤマハ・ファミリーの一員でありたいと心から思っているのだ。

「僕はイタリア人で、ヤマハは日本のメーカーだ。お国柄も人柄も違う。日本のライフスタイルや時間の使い方、さらにはレストランまで、イタリアとはまったく違う。でも、鈴鹿8耐のプロジェクトでは日本から多くの新しいことを学ぶことができ、それがすごく楽しい。人生で学べるすべてのことは、僕にとっての"よいこと"。だから日本で過ごす時間が大好きなんだよ」

250730_AL_007.jpg

ライダーとしての夢は、鈴鹿8耐で優勝し、SBKでチャンピオンを取ること。両方を叶えたいが、どちらも非常に難しいということも分かっている。

「現実的であることも大切だけど、夢を描くことはもっと大切だ。実現できる可能性はあるんだからね。鈴鹿8耐では、チームメイトとうまくマシンを共有しながら、さまざまな変化が起きても失敗しないように心がけなければならない。全すべてが重要で、すべての細かいことに備える必要があるんだ。自分を信じて、楽しもうと思ってるよ」

楽しんだ先に待っているのは、8月3日午後7時30分に訪れる栄光の瞬間だ。勝利の余韻を携えてイタリアの家に帰れば、きっちりと整理整頓された居心地のよいガレージが待っている。

ページ
先頭へ